「SaaS貧乏」を回避する、月額費用の見直し5つの視点
「SaaS貧乏」を回避する、月額費用の見直し5つの視点
この記事で得られること
- 毎月支払っているSaaS費用が「妥当か」を判断する5つの視点
- 自社のSaaS利用を棚卸しする具体的な手順
- 削減できるパターンと、削減すべきでないパターンの見分け方
- 「SaaSを置き換えるべきか継続すべきか」を判断するチェックリスト
「気づいたら毎月のサブスク費用が積み上がっている」「個別の金額は妥当に見えるが、合計すると経営を圧迫している」——そんな状態に心当たりがある方は、ぜひ読み進めてください。
はじめに:なぜ今、SaaS費用の見直しが必要なのか
SaaS(Software as a Service)は、初期費用を抑えてすぐに業務に使える便利な仕組みです。一方で、事業の成長とともに月額費用が想定以上に膨らみ、経営を圧迫するケースが2026年に入って急増しています。
背景には次の3つの構造があります。
1. 外資系SaaSの価格改定が相次いでいる
円安や物価高騰を背景に、外資系SaaSの料金改定が続いています。Salesforce、HubSpot、Slackなど主要SaaSは、2024年から2026年にかけて段階的な値上げを実施しました。「今までと同じ機能なのに、月額が15〜30%上がった」という声は珍しくありません。
2. SaaS導入数の増加と「サイロ化」
MM総研の調査によれば、従業員100名以下の企業のSaaS利用率は2024年の38%から2025年には48%に上昇しました。一方で、部門ごとに似たSaaSが個別契約され、データが分断される「サイロ化」が起きています。
3. 生成AIによるシステム開発コストの低下
Claude Code、GitHub Copilot等のAI開発ツールにより、自社専用システムの開発コストは以前より下がっています。「月額数万円のSaaSを使い続けるより、自社開発の方が経済合理性が高い」という条件が、特定のケースで成立しはじめています。
これらの変化を踏まえ、SaaS費用は「定期的に見直すべき経営判断項目」になっています。
視点1: 課金単位 ── 「人数」「拠点」「データ量」のどれで増えるか
SaaS費用が膨らむパターンの第一は、課金単位の構造です。
主な課金単位は次の3種類です。
| 課金単位 | 例 | 増え方の特徴 |
|---|---|---|
| ユーザー単位 | Slack、Microsoft 365、Salesforce | 利用人数が増えると比例的に増える |
| 拠点・店舗単位 | POS、店舗管理SaaS、勤怠SaaS | 出店数・拠点数に比例して増える |
| データ量・処理量 | クラウドストレージ、メール配信 | データ量・送信数に比例して増える |
確認ポイント
自社で使っているSaaSの課金単位を一覧化してください。特に「拠点・店舗単位課金」と「ユーザー単位課金」の組み合わせは、事業拡大時に費用が急増します。
例えば、店舗単位で月額3万円のSaaSを20店舗で使えば月60万円、5年で3,600万円です。同じ機能を自社専用システムで作れば、初期費用と保守費の合計が下回ることがあります。
ただし注意点
ユーザー単位課金のSaaSでも、1ユーザーあたり数百〜2,000円程度の中小企業向けSaaS(freee、kintone、Slack等)は、ユーザー数が数十名規模なら継続が合理的です。問題になるのは、エンタープライズ向けSaaSや拠点単位課金のケースが中心です。
視点2: 機能利用率 ── 「払っているけど使っていない」を可視化する
SaaSは「使っていない機能」にも課金されます。
よくある実態
- 営業全員にCRMのアカウントを発行したが、半数は週1回も使っていない
- 「上位プラン」に契約したが、上位機能の半分以上は誰も使っていない
- 退職者のアカウントが削除されず、課金が継続している
棚卸しの方法
各SaaSの管理画面で次の3点を確認します。
- ログイン頻度: 過去90日でログインしていないアカウントを特定
- 機能利用ログ: 利用されていない機能・モジュールを特定
- 権限: 編集権限が必要なのに閲覧権限だけのユーザー、その逆を確認
削減できる典型パターン
- 休眠アカウントの削除 → ライセンス費用の即時削減
- 上位プランから下位プランへのダウングレード
- 編集権限から閲覧権限へのダウングレード
- 利用部門ごとの契約から全社共通契約への統合(ボリューム割引)
退職者の削除漏れだけで、年間数十万円規模の無駄な支払いが見つかることもあります。
視点3: 機能重複 ── 「似たSaaSを複数契約していないか」
部門ごとにSaaSを導入していくと、同じような機能を別々のSaaSで持っているケースが発生します。
よくある重複パターン
| 機能領域 | 重複しやすいSaaS例 |
|---|---|
| ファイル共有 | Google Drive、OneDrive、Dropbox、Box |
| チャット | Slack、Microsoft Teams、Chatwork、LINE WORKS |
| プロジェクト管理 | Asana、Trello、Notion、Jira、Backlog |
| ビデオ会議 | Zoom、Google Meet、Microsoft Teams |
| 会計・経費 | freee、マネーフォワード、楽楽精算 |
統合のメリット
- ライセンス費用の重複削減
- データが一箇所に集約され、転記・二重入力の削減
- ボリューム割引の適用
- 管理工数(アカウント発行、退職時処理など)の削減
ただし統合の落とし穴
「全部1つに統合する」のが正解とは限りません。例えばGoogle WorkspaceとMicrosoft 365を併用している企業は、外部取引先との互換性のため意図的に併用しているケースもあります。
統合判断は、各SaaSの主要利用部門と外部連携要件を確認してから行います。
視点4: 業務適合度 ── 「業務をSaaSに合わせている」状態を見直す
SaaSが業務に完全に合うことは稀です。ある程度の「業務側の歩み寄り」は必要です。
しかし、次のような状態は黄信号です。
黄信号のサイン
- SaaSの機能制限を回避するため、Excelでの並行管理が発生している
- 業務フローをSaaSに合わせるため、現場の作業工数が増えている
- 顧客向けの提案内容を、SaaSの仕様に縛られて変えている
- 主要機能の一部だけ使うために、フル機能プランを契約している
判断軸
業務適合度を判断するための問い:
- このSaaSの機能制限により、業務側で「迂回ワーク」が発生しているか
- 迂回ワークに月何時間使っているか
- 自社専用システムに置き換えた場合、迂回ワークが解消されるか
- その時間を金額換算すると、SaaS費用と合わせていくらか
例
月額10万円のSaaSを使っているが、機能制限により月20時間のExcel並行管理が発生している。20時間×3,000円(人件費換算)= 月6万円相当のロスです。トータルでは月16万円相当のコストになります。
この場合、自社専用システム(初期200〜400万円、月額保守5〜15万円)への置き換えが、5年TCOで有利になる可能性があります。
視点5: ベンダーリスク ── 価格改定・サービス終了の可能性
SaaSはベンダーの方針に左右されます。
過去に起きた典型事例
- 主要SaaSの一斉値上げ(年15〜30%)
- 機能の有料化(無料プランの機能制限強化)
- 特定機能の廃止(API変更、レガシー機能の打ち切り)
- サービス終了(買収・事業撤退)
特にリスクが高い領域
- 小規模なSaaSベンダー(事業継続性に不安)
- 単機能SaaS(生成AIで代替されやすい)
- 海外SaaS(為替変動・法規制変更の影響を受ける)
リスク対策
- データのエクスポート可否を契約時に確認
- 業務の根幹に関わるSaaSは、複数ベンダーの選択肢を持っておく
- 重要データは定期的にエクスポートしてバックアップ
- ベンダーロックインの程度を契約時に確認(独自フォーマット、API依存度)
棚卸しの実務ステップ
ここまでの5つの視点をもとに、具体的な棚卸しの手順を提示します。
ステップ1: SaaS一覧の作成
次の項目をExcelで一覧化します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| SaaS名 | サービス名 |
| 用途 | 何に使っているか |
| 契約形態 | 月額/年額/無料プラン |
| 課金単位 | ユーザー/拠点/データ量 |
| 月額費用 | 円換算 |
| 利用部門 | 主要利用部署 |
| ログイン頻度 | 過去90日のログイン状況 |
| 契約担当者 | 社内の管理担当 |
シャドーIT対策: 経理部門に依頼して、過去1年の法人カード明細・銀行振込履歴をチェック。情シスや経営層が把握していないSaaS契約が見つかることが多いです。
ステップ2: 5視点での評価
各SaaSについて、本記事の5視点で評価します。
- 視点1: 課金単位は今後の事業拡大で増えるか
- 視点2: 機能利用率は何%か
- 視点3: 他SaaSと機能重複していないか
- 視点4: 業務適合度はどの程度か
- 視点5: ベンダーリスクはどの程度か
ステップ3: 4分類への振り分け
評価結果から、各SaaSを4分類に振り分けます。
┌──────────────────────┬──────────────────────┐
│ A. 継続 │ B. 見直し(プラン変更)│
│ 適合度高、費用妥当 │ 適合度高、費用過剰 │
├──────────────────────┼──────────────────────┤
│ C. 統合(重複解消) │ D. 置き換え検討 │
│ 機能重複あり │ 適合度低、費用過剰 │
└──────────────────────┴──────────────────────┘
ステップ4: アクション計画
優先度の高い順に、3〜6ヶ月の実行計画を立てます。
- 即時対応: 休眠アカウントの削除、プランダウングレード
- 3ヶ月以内: 重複SaaSの統合、契約見直し交渉
- 6ヶ月以内: 大型SaaSの置き換え検討(自社開発/別SaaS)
「置き換え」を検討すべきラインの目安
5視点での評価が出揃ったら、最後に「自社専用システムへの置き換えを検討すべきか」を判断します。
置き換え検討の合図
次のいずれかに該当する場合、自社開発との5年TCO比較を行う価値があります。
- 月額費用が30万円以上(年間360万円以上)
- 拠点・店舗単位課金で、今後拡大予定がある
- 業務適合度が低く、迂回ワークが大きい
- ベンダーロックインが強く、リスク分散したい
- 機能の一部しか使っていない(オーバースペック)
置き換えるべきでないケース
逆に、次のケースではSaaS継続が合理的です。
- 利用人数が20名以下
- 業務がまだ流動的で、要件が固まっていない
- 業界標準ツールで、外部取引先との連携が重要
- SaaS側の機能更新が活発で、自社開発では追従が困難
- 主要業務ではなく、補助的な業務での利用
「すべてのSaaSをやめる」のは目的ではありません。コストが膨らんでいる部分だけ見直すのが現実的な対応です。
まとめ
SaaS費用の見直しは、次の手順で進めます。
- すべてのSaaSを一覧化する(シャドーIT含む)
- 5つの視点で評価する(課金単位/機能利用率/機能重複/業務適合度/ベンダーリスク)
- 4分類に振り分ける(継続/プラン変更/統合/置き換え検討)
- 優先順位の高い順に実行計画を立てる
「全部をやめる」のではなく、「合っていない部分を見直す」のが現実的です。月額費用が30万円を超え始めたら、年に1回は本格的な棚卸しを行うことをお勧めします。
TechTekでは、SaaS棚卸しから置き換えまでをご支援します
「自社のSaaSをどう見直せばいいか分からない」「置き換えを検討したいが、何を作ればいいか分からない」——そんなときは、お気軽にご相談ください。
- 現状ヒアリングは無料です
- 「置き換えない方が良い」とお伝えすることもあります
- 全国対応・オンライン中心
[無料相談する]
あわせて読みたい資料
SaaS費用 簡易チェックシート(Excel) 本記事の5視点で自社のSaaS利用を棚卸しできるテンプレート。無料でダウンロードいただけます。
[資料をダウンロード]
著者プロフィール
瀬戸友太 / TechTek合同会社 代表社員
中小・中堅企業向けに、AI×Webエンジニアリングで業務システム開発・SaaS置き換えを手がける。Claude Code等のAI開発ツールを業務プロセスに統合した少数精鋭チームを運営。
参考資料
- MM総研「中小企業のSaaS利用実態調査」
- Money Forward Admina「SaaSコスト削減の決定版」
- Stripe「ソフトウェアの料金: SaaSビジネスのモデルと戦略」